毒状態
それは突然起こった。
朝食を作り終えて食卓で椅子に座ったまま固まる。
「今日はなんだかいつもより食欲がないな」
「疲れているわけでもないし、よく眠れたはずなのになぜ…」
暑さである。
気温が昨日の同じ時間より3℃も高かった。そしていまにも雨が降り出しそうな湿度。
暑さはじわじわと体を蝕んでいく。今日のわたしは起きた瞬間や寝てる時から少しずつダメージを受け続けていたのだ。
わざわざ作ったのに食べられないってなにごと?と思ったけどそういうことだった。
サンドイッチを丁寧にラップで包んで冷蔵庫に入れる。ああ良かった。もしわたしがゼルダの伝説ブレスオブザワイルドのリンクだったら、その場で力尽きていた。職業が英傑とかじゃなくて本当に良かった。
エアコンのスイッチを入れた。毒状態は止まった。
そういえば最近、脳内物質が出ている時だと同じことをしてもあまり疲れないというのを発見した。
例えば同じ歩数でもひとりで屋外を散歩するのと、家族や友人とウインドウショッピングする時では疲れ方が違う。刺激があって退屈でなく、楽しいからだ。いつもの3倍くらい動けたりする。
いわゆるスター状態である。無敵時間。この間に受けたダメージはカウントされない。
そして翌日寝込む。体は正直だ。しっかりとダメージは蓄積されていた。ただわたしがそう感じていなかっただけで。
スター状態はどこでも簡単に作れる。イヤホンで音楽を聴く。ただそれだけだ。わたしは自分で思っているより単純でバカだった。こんなことで簡単に騙せてしまうなんて。
洗濯物を干すとき、皿を洗うとき、歌に合わせて口をパクパクさせて体でリズムを取る。家事の時間がカラオケの練習時間になった。わたしのカラオケの選曲リストは4年前から全く更新されていない。最近の歌を頑張って覚えよう。
今夜もわたしは皿を洗いながら夜に駆けている。